その衝動の果て…【完】
最初の遺伝子上の父親、大井眞人(おおいまさと)は

アイツが一時期肉体を借りて彼女に近づくことに利用された人間だった。


アイツはこの世に母を送り込んでから、

用意周到に母との出会いを準備していた。

まず、母の前に現れるとき、眞人を乗っ取って器(うつわ)にすることに決め、

何年も前からその容姿で母の夢の中に現れ続けた。

そして、大学の時、初めて出会ったように装って…

母と付き合い始めた。

しかし所詮は器の存在。眞人の意思はそこには働いていなかったのだろう…

そして、そんなに長い間他人の人生を乗っ取ることができるわけもなく、

眞人=アイツは大学卒業と同時に、母の前から失踪した。

それから母は血眼になって眞人を探したが…

見つからなかった。おそらくアイツが見つからない様に隠したのだろう…

結局眞人は7年後失踪宣告を受け、この世にはいない人間になった。


それなのに、もう一度だけ母の前に現れる。

それがあの再会の日の記憶で、その日起こったことが、

今の全ての事につながっている。

この忌々しい感情も、そして僕の存在自体も…


眞人が今はどこにいて何をしているのか知らない。

…もちろん会ったことなんてない。

母はアイツが失踪してから、長い間ボロボロになりながらもさまよい探していた。

そのあいだ、傍に寄り添い続けたのが…

オヤジだった。




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