その衝動の果て…【完】
まずカノジョはいつものようにカップに唇を寄せて…

紅茶の香りを楽しむ。

それから琥珀色の液体に口を付ける。喉元に、液体が通るたびに…

上下する。


その動きに、僕の目が釘付けになっていると…

「いっちゃん。美味しい…」

カノジョはそう僕に向かってつぶやいた。

僕はその姿を視界の端に入れ目を細め、口角を上げ微笑んで返しながら、

視線は自然と唇に移った。


その唇は柔らかいのだろうか?甘いのだろうか?

それとも切なくて苦いだけなのだろうか?


そう思うだけで、胸がぎゅっと締め付けられる。

キスしたことはあるが、それはもちろん目の前の大好きな人ではなかった。


どうして僕は…

でもやっぱり僕は…

そんな僕の惑う気持ちなんてお構いなく、

無邪気なカノジョはその液体をゆっくりと味わうように飲み干した。


それからカノジョはカップを置いて、いつものように本を読み始める…

僕は向かい側のソファーに座って同じように本を読む…

でも目の前の本の内容なんて、ほとんど入ってくるわけもない…

いつそうなるのか…

僕は本を見ながらもチラチラと彼女を盗み見ながら、冷静を装う。


いつものようでいつもと違う…

そんな愛おしい時間が今日も過ぎていった。


ただ、今日は…
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