その衝動の果て…【完】
その衝動

引き離されたその日

僕は今夜もカノジョに紅茶を淹れる。それは何気ない日常の光景。

僕にとっては邪な思いを含んだ行為に他ならない。

僕は今夜こそ、それをやろうと決意し、今まで用意周到に準備をしてきた。

今夜なら、オヤジは出張で泊まりなので帰って来ない。

カノジョも週末なので明日ゆっくり起きてくるからそれまでに出かけてしまえば、

気まずい雰囲気からはとりあえず逃げられるだろう。

大学も合格し、来週からは独り暮らしも決まっていた。

これが想いを遂げる最初で最後のチャンスだ。

カノジョに普段から常用している睡眠薬をいつもより多めに飲ませて…

なんて恐ろしい事を思い付いたのだろうか?


「紅茶いる?」

僕は受験勉強が終わってから、毎日働いてきたカノジョを労うため、

食後に紅茶を淹れていた。

「うん。いっちゃんいつもありがとうね」

何も知らないカノジョは無邪気に微笑む。

その柔らかく暖かな微笑みにドキドキする鼓動を隠すのが

僕にとっては精一杯の事だった。

カノジョの好みのお茶を専門店で買い、入れる紅茶。

でも今日はその紅茶が、僕とカノジョを

禁断の世界に導くことになるなんて思いもしないだろう…
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