その衝動の果て…【完】
「ほのか」

僕は低い声で愛しいその名を声に出してカノジョに向かって…

初めて呼んだ。普段僕には、そう呼ぶことはもちろんできない。

目の前のカノジョに恐る恐る手を伸ばす。

横たわるカノジョの髪に指を差し入れて、ゆっくりと震える掌で撫で付ける。

それだけで僕の心と躰は爆発しそうだった。


「ほのか。愛してる…」

震える心と躰。やっと、やっとだ。僕は、眠り姫の胸元に顔を埋める。

柔らかな感触。彼女の薫り。それを、頭を押し付けたまま吸い込む。

小さい頃はよくこうやって母親に擦り寄って抱きしめられたが

年頃がきてそれができなくなった。

オヤジの視線も世間の評判もそういう事に関しては冷たかった。

あの頃の無邪気さは、今はもうない。あるのはただ征服したい衝動だけだ。

だから、カノジョの意識の有無すら関係なかった…


明かりをつけたままにして、その肢体を脳裏に焼き付ける。

部屋着のボタンをひとつひとつ外し、胸元が露になる。

その透き通るような肌に、一瞬息をするのを忘れそうになった。

カノジョは決して若くもなく女性らしい豊満な肢体でもない。

胸元には手術の痕もある。それでも僕がその気になるのにはじゅうぶんだった。

カノジョが、カノジョだから。やっと、やっとだ…

僕は一瞬の躊躇いを振り払ってその柔肌に顔を埋めた。

触れた肌はほのかに上気していて暖かかった。
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