その衝動の果て…【完】
僕は、こんな能力を使えるようになって、まずのぞいたのは母の心の中。

母の中から、それも本人は押し殺して深層心理の中にあるものを見た。



それは、ある日僕がまだ生まれる前に母が出張に行った時の記憶だった。

母は出張先で旧友と別れ、駅に向かう道すがらある男とぶつかる…

その男「まあくん」は母の学生時代の恋人だった。失踪して20年経っての再会。

その現実が受け入れられなかった母は、その場で意識を失う。

目が覚めたらその男の泊まっている部屋のベッドにいた。

彼のペースに巻き込まれながらもこのままここにいるのは賢明ではない…

母はそう思いその夜の宿を探そうとしたが、

結局その部屋に泊まることを余儀なくされた。

その夜、別々の部屋のベッドで眠る二人を、激しい雷鳴が引き寄せ、

かつて惹かれあった二人が再び触れ合うこととなって…


母が翌朝目覚めた時には、その男は忽然と消えていた。

まあくんと泊まっていた事実も、まあくんと居た部屋も…

幻だった。それなのに全てが幻ではすまなかった…

一夜の過ちが、その後の母の運命も、その男の運命も、オヤジの運命も…

そして僕の運命まで狂わせた。


しばらくして、自然妊娠しないはずの母が妊娠…

僕を出産した。

それが意味することは、おそらく…

僕は母の記憶の中にその答えを見つけた。
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