不滅の妖怪を御存じ?
『隣のクニの者たちがここ数日何度も襲撃に来る』
『向こうも食料が尽きているのだ』
『このクニとて余裕はないのだぞ』
オサの前で大人たちが口々に言いたいことを言う。
少年は物陰に隠れてじっと耳をすませていた。
クニの老人はもうほとんどいなくなった。
口減らしをしたためだ。
だが、それでも食料不足の問題は解決しない。
大人たちは、オサをも口減らしのために山に捨てるつもりだろう。
オサの次にこのクニで権力があるナシムなど、常々オサを退こうとしていたのだから。
そして、少年はもう一つのことを知っていた。
オサと共に、自分も口減らしに山に捨てられる予定なのだと。
そして、もうオサにそれを止められる力はないということも。
盲目の老人など、食料不足に苦しむクニではお荷物なだけなのだ。
少年はそっと組んでいた足をゆるめる。
そして、歪な形に編まれた袋を取る。
逃げようと、漠然と思った。
自分がいなくなった後のオサのことなど頭になかった。
弓矢と、石で作った手包丁。
火打石。
うさぎの毛皮。
それと、少しばかりの干し肉と乾燥させた木の実。
使えそうなものを袋に詰める。
『イヌ』
オサが少年を呼ぶ声がした。
やけに小さな声。
他の大人たちには聞こえてなかっただろう。
だが、少年はその声を無視する。
音も立てずに家を出て、夜の暗闇へと身を投じた。