不滅の妖怪を御存じ?





『隣のクニの者たちがここ数日何度も襲撃に来る』

『向こうも食料が尽きているのだ』

『このクニとて余裕はないのだぞ』


オサの前で大人たちが口々に言いたいことを言う。
少年は物陰に隠れてじっと耳をすませていた。

クニの老人はもうほとんどいなくなった。
口減らしをしたためだ。
だが、それでも食料不足の問題は解決しない。

大人たちは、オサをも口減らしのために山に捨てるつもりだろう。
オサの次にこのクニで権力があるナシムなど、常々オサを退こうとしていたのだから。

そして、少年はもう一つのことを知っていた。
オサと共に、自分も口減らしに山に捨てられる予定なのだと。

そして、もうオサにそれを止められる力はないということも。
盲目の老人など、食料不足に苦しむクニではお荷物なだけなのだ。

少年はそっと組んでいた足をゆるめる。

そして、歪な形に編まれた袋を取る。

逃げようと、漠然と思った。
自分がいなくなった後のオサのことなど頭になかった。

弓矢と、石で作った手包丁。
火打石。
うさぎの毛皮。
それと、少しばかりの干し肉と乾燥させた木の実。
使えそうなものを袋に詰める。


『イヌ』


オサが少年を呼ぶ声がした。
やけに小さな声。
他の大人たちには聞こえてなかっただろう。

だが、少年はその声を無視する。
音も立てずに家を出て、夜の暗闇へと身を投じた。





< 404 / 491 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop