不滅の妖怪を御存じ?
『イヌ』
再び聞こえたオサの声に耳を塞いで。
少年は走り出す。
ハァハァと息がきれるまで走る。
幸いにして月が出ている夜だったので視界はそこまで悪くなかった。
手近な木によじ登り、上から遠くを見つめる。
山々の連なりと、木々が生い茂る風景がどこまでも続いている。
振り返れば、青暗い景色の中でポツリと灯りが揺らめいている場所がある。
オサと少年がいたクニだ。
もうあそこに戻ることは出来ない。
鼻の奥がツンとした。
少年は進むしかないのだ。
ぐっと唾を飲み、行こうと顔を上げた時。
はたと少年は気付いた。
森が静か過ぎるのだ。
木々の騒めきも、獣の息遣いも聞こえない。
まさか、食料不足でここら一帯の生き物は死んでしまったのか。
だが、よく耳を澄ませてみるとそうではないことが分かった。
何かが近くにいるのだ。
じめじめとした、薄気味悪い、何かが。
人でも動物でもない。
シトシトと、得体の知れない何かが近づいてくる。
少年はじっと目を凝らし、森の奥を見つめる。
暗く、深く、冷たい何かがそこにいた。