不滅の妖怪を御存じ?





弓月が極度の人見知りだということは、藍は幼稚園に入る前から知っていた。

買い物に行くのも藍のベビーシッターに頼む。
けれど弓月はベビーシッターにさえ顔を合わせたことはない。
藍が大きくなってからは買い物は全て藍の仕事となったが。

回覧板も藍の家は飛ばすことになっている。
授業参観にも一度も来ない。
藍の歴代の担任もほとほと困り果てていた。

藍も何度か弓月にその人見知りをどうにかしろと言ったことはある。

しかし弓月の答えはいつも同じだった。



「わたくしは、人見知りではない。」

「弓月は現実を見た方がいいんじゃないかな。」

藍に反論されると弓月はわかりやすく眉をつり上げて怒った。


「人に会ったとしても無意味なのだ。」

そう言い捨てて、フッと消えてしまう。
弓月は逃げるのが上手い。

そんな弓月の人見知りからか、藍と弓月の二人で切り盛りしている銭湯は一見さんお断りだ。
新しい客は来るな、と店の前に弓月の達筆で書かれている。

一応断っておくが、一見さんお断りだなんてそんな偉そうなことを言える銭湯じゃない。
従業員が藍と弓月の二人しかいないからサービスも悪い。
百五十年続く老舗といえば聞こえはいいが、いつ潰れてもおかしくないボロ銭湯だ。

地震がきたら終わるなうちの銭湯は。
藍は常々そう思っていた。





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