不滅の妖怪を御存じ?




「おい。」

「はい?」


親子丼を作ろうと材料を用意していたら、横から声をかけられた。
そちらをみれば、頭部が禿げたずんぐりした男が藍を睨みつけてきている。


「床、汚い。」

「昨日ちゃんとモップで拭きましたー。」

「汚い。」

チッ、と男は舌打ちするとズンズン足音をたてて去っていく。
藍はその後姿を睨みつける。


「遅い。」

「すいませんハゲに手間取られまして。」

藍の全く反省しない様子にチッと女の客も舌打ちする。
負けるか。

同時に、早くこの銭湯が潰れればいいのに、と思う。
いや、いっそ潰れてくれ。

藍はため息をつく。

何故なのか。
理由は分からないが、この銭湯に来る客は皆、藍をあからさまに嫌っている。


「今日から弓月のお仕事を手伝います、有田藍です。よろしくお願いします。」


まだ小学一年生のとき。
初めて弓月の銭湯の仕事を手伝ったとき、休憩していたお客さんにそう挨拶し笑いかけた。

結果。

総シカトをくらった。
あからさまに無視された。
学校でだってここまであからさまに無視されたことはない。

ムッとした藍と、思いっきり不快感丸出しの客。
その戦いは、十年経った今でも続いている。




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