インストール・ハニー
「はぁ。学校行きたくないなぁ」

 だから、ひとりごとだって。危ないな。末期症状。

 部屋の中。机のライトだけ点けて、暗くしてある。ワザと。気持ちが暗いから、部屋が明るいのが許せなかった。

 着信音。スマホにメールだ。

「明日、遊び行かない? 買い物したいんだ~」

 同じクラスで、仲良しの一海(かずみ)だ。明日学校終わったらバイトは無いから、行っても良いだろう。「リョウカイ」と適当に返事を打って、送信した。

 適当でごめん。本当は行きたくない。でも引きこもっていても良いこと無いだろうし……。

 ベッドにスマホを放り投げる。黄色のシリコンカバー。宮田くんが黄色いストラップを携帯に付けているから。彼はまだ普通の携帯電話を使っている。

 プラプラ揺れるストラップを思い出した。
 失恋したんだ。髪を切ったらいいかな。この長い髪。なにか忘れられるようなことをしなきゃ。吹っ切れるような。

 なんで言い聞かせているんだろうか、自分に。そりゃ辛いから。だから言い聞かせるの。

 髪の毛。長くしてた方が女らしいなと思ってたのと、勝手に、あの人は長髪が好きなんじゃないかなと思ったから。
 まぁ、実際は違ったみたいだけど。できた彼女が、ショートカットでボーイッシュな子だったからだ。

 くだらないなぁ。自分の想いも、何も出来なかった自分も。

 部屋を眺める。全て、このおもちゃ箱のような部屋で、あたしの世界は回っていた。好きな人のことを考え、勉強して、夢を見て、おしゃれをして。

 想いを伝えられなくて、そして終わっていくことが、こんなに寂しいなんて。息が詰まりそう。1年ちょっとの想いを全部飲み込むには、どれだけの時間と精神力が必要なんだろう。吐いちゃいそう。

 吐く変わりに涙が出てきた。

 スマホをいじる。指で触ると明るく光る画面。
 あんまり依存してるわけじゃないけど、それなりに手元に置いて使う。
 好きなアーティストのこととか、ケータイ小説のサイトとか、お気に入りに入れている。


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