インストール・ハニー
「はぁぁ……」

 この世の終わりかのような溜息が出る。
 高校2年の夏休み前。失恋をしました。失恋した。失恋した。しかも、想いを言えないうちに。あたしは失恋をした。

「もうだめだ」

 独り言すら出てくる。
 マンガとかドラマとか見て、主人公の女の子が恥ずかしくて告白できないとか、ありえん! と言っていた。

 想いは伝えなきゃ。言わなきゃ伝わらない。明日、死んだらどうするの。そう思っていたのに。

 この高校に入学して同じクラスだった男子。宮田くん。2年生になっても同じクラスになった。だから、1年ちょっとの片想い。

 誰にでも優しくて、明るくて、爽やか。「良い人」を絵に描いたような、いや人間だけども、そんな人。

 すごく仲良しなわけじゃないけど、一緒に遊ぶような仲でもない。たぶん宮田くんにとってあたしは、1年2年と同じクラスだけど、影の薄い存在に違いない。

 あたしだって未だに自分から挨拶するのさえドキドキする。話す時も声が上擦って、震えて、なんて情けない。

 1年の時、気付いたらいつも目で追っていて、その人のことばかり考えていて。だから早いうちに認めたのだ。あたしは彼が好きなんだって。でも。好きになるのに期間なんか関係無かった。でも、告白なんてできなかったし、考えもしなかった。

 そんな風にして2年の夏休み前。宮田くん、彼女ができたってさ。

 クラスの男子に「なんだよ、お前よぉ昨日見たぞ」とか言われているし、聞きたくないけど宮田くんは友達と彼女の話題を話しているの、耳に入るし。クラスの女子だって「宮田くん彼女とさ」とかコソコソ言っているし。
彼、やっぱりわりと人気あったんだねみたいな、ぐぐぐ。

 この想いは誰にも秘密だった。だから自分から誰にも相談できなくて、友達にも秘密にしてた。だから、知られたくなくて、この悲しみと辛さを誰にも言えない。

 あたしは暗い陰気くさいタイプではないはず。そう自分で思っている。でも、友達はいるけど、恋のこととなると、うまく立ち回れない。モタモタしている間に、時間は過ぎて行くし、状況は変わって行くんだ。小学校の初恋も、中学で好きになった人も。

 このままで、片想いで見ているだけで、幸せだった。それと同時に、彼氏だの彼女だのって、恋の話を楽しそうにして、キラキラしているクラスメイトが羨ましかった。

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