君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
車から飛びおりて駈けよった時、彩はきょとんと私を見た。
『あれ? どこから来た?』
今、電話したんだよ、と手に持った携帯を見せる。
なるほど、それで通話中だったのだ。
『今日、泊めてくれない?』
ちょっとさ、部屋に帰れなくてさ、と口を尖らす彩に、大森さん? とぶつける。
彩は、元から大きな目をさらに大きく見開いて。
『なんで…げっ!』
彩の視線を追って振り返ると、新庄さんが車を降りて、こちらへ来るところだった。
忘れ物、とリヤシートに置きっぱなしだった私のコートを渡してくれる。
彩が、ちょっと戸惑った様子で、そんな私と新庄さんを交互に見た。
それに気づいた新庄さんが、にやりと笑って。
『終わったら、返してもらえるかな』
言いながら、ぐいと私を彩のほうに押しやった。
彩は、ドカンと音を立てて爆発して、恵利はあんたのもんかい、と叫んだけれど。
新庄さんは、さらりと無視して車に戻り、通りすぎざまライトを一度点滅させて、去っていった。