君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
車内で、彩に電話をかけるけれど、繋がらない。
地下鉄に乗ってしまったんだろうか。
マンションに着く直前、もう一度かけてみると、今度は通話中だった。
もどかしくて、いらいらと携帯の画面を眺めていると、新庄さんに声をかけられた。
「大塚、あれ」
「え」
新庄さんが顎で指すほうを見ると、マンションの前に、彩がいた。
「違う違う、あの人、バツイチなの」
「あ、そうなの…」
彩が、空になった缶ビールを振りながら言う。
あっさりと、一番の懸念が解消された。
「数年前に別れてるんだけど、色々言われるのが面倒で、周りに明かしてないんだよね」
テーブルの上には、彩が買いこんできた食糧やアルコールが所狭しと並んでいる。
私は安堵のあまり、その上に突っ伏した。