君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)

私も新庄さんも、呆然としていた。

ぽかんと見つめる新庄さんの手を振り払うと、堤さんは身体を折って笑う。



「あっはは、ごめん…お前さあ」



いつもそういう顔、してたほうがいいよ。

心から楽しそうに言って、涙まで浮かべて笑うその顔には、先ほどまでの敵意はどこにもなくて。


私より先に状況を理解したらしい新庄さんが、お前な…とつぶやくのが聞こえた。




「お前の冗談は、笑えない」

「まあ、半分本気だったから」



隣のテーブルからスツールを引っ張ってきて、堤さんが腰をかける。

じろりとにらまれても、そ知らぬふりで、新庄さんの煙草をまた一本、勝手に抜き取った。



「異動のあいさつみたいな、もんだよ」



平然と言ってのけ、これまた新庄さんのライターで火をつける。



「せっかく営業局に来て、いつかまた新庄とやれると思ってたのに、評判聞けば、すっかり丸くなってて」

「悪かったな」

「もっとドロドロしてるほうが、合ってるって」

「あれ一回で、こりごりだ」



私は口をはさむこともできず、丸くなったの、あれで? と愕然としながら、ふたりのやりとりを見ていた。

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