君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)

「大塚さんも、悪かったね。つい、かき回したくなって」

「はあ…」



なんと言ったらいいのかわからず、気の抜けた返事をする。

全部、いや半分、冗談だったのか。


でも、やっぱり半分は、本気だったんだ。

その考えを見抜いたように、堤さんが微笑んだ。



「もうしないよ、すっきりしたし」



涼しく飾ってない顔も見られたし、と笑うと、新庄さんがあからさまに嫌そうな顔をした。

堤さんは、満足げに煙を吐いて、でもさあ新庄、と続ける。



「あそこで怒る権利、お前にあるの」



少しだけ悪意のこもった視線で、新庄さんを見すえて。


新庄さんが舌打ちをして、PCを乱暴に閉じた。

無言でスツールから腰を上げる。



「行くの」

「打ち合わせがある」



ごちそうさま、と堤さんが煙草を振るのを無視して、新庄さんは出ていった。



「僕らも、そろそろ戻ろうか」

「はい…」



私は、堤さんとのことがなんとか解決を見たようで、胸をなでおろしていたけれど。

肝心の話を、新庄さんとできなかったことに、今頃気づいていた。



< 93 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop