君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)

一年のうちで、一番寒い時期が過ぎた。

朝起きると、それを実感する。


なんとなく、コートのファーは外そうかなとか、寒くてもダウンはもう着たくないなとか。

そういう発想が浮かぶことで、季節の変わり目を感じる。


3月も目の前だというのに、新庄さんとは、一番中途半端な形のまま、停滞してしまった。


ボールがどちらの手にあるのかわからなくて、投げようにも投げられない。

新庄さんも、同じような気持ちなんだろうか。


それとも、もう、私の話なんて、どうでもよくなっているんだろうか。




「おー、恵利」



ショッピングモールへの地下道で、彩と待ちあわせる。

夜の仕事の前に、軽く夕食をとりに出てきたのだった。


外は、春一番らしき猛烈な風で、屋外に出る気はしない。

外を通らずに行かれるところですまそう、ということになった。


謝恩会以来だね、と言われて、そういえばそうだと思い出す。

週の頭に、毎年恒例の雑誌社の謝恩パーティがあり、そこでちらっと彩と一緒になったのだった。


謝恩会といったら、彩と新庄さんが、初めて言葉を交わした場所でもある。

あれから、ちょうど一年が過ぎたということだ。

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