メモリ・ウェブスター

親子の関係

「お母さんではない」
　ファーストフード店を後にした私達は雀の自宅に向かうことになった。店内は喧噪が席巻し落ち着かない。最初から自宅にすればよかったではないか、という意見が聞こえなくもないが、致し方ない。私は流されて生きている。ファーストフード店員に、注文して、と頼まれればその通りに承諾する。それが私の人生である。
「たぶんね」
「私にはよくわからないが、それでも愛してくれたのではないか」
「たぶんね」
　雀の返答は素っ気ない。
　学校が見えた。豪勢な造りだった。校庭という概念はこの学校にはない。おそらく運動場は別にあるのだろう。門を隔てた真向かいには、噴水があり水しぶきをあげている。学校の屋上から垂れ幕が下げられている。そこには、
〝祝『ライズストーリー』デビュー〟』
　と墨字で書かれていた。
「あれは？」
「ああ、うちの学校でメジャーデビューしたバンドがいるんだ。結講人気みたい。家に帰れば音源あるよ」
　二つの事がわかった。どうやらここは雀が所属する学校であり、最近メジャーデビューした音源は彼女の自宅にある。となると、
「では君の家に行くか」
　と私は足を速めた。
「だから向かってるじゃない」
　雀は私のお尻をパンと叩いた。だが、私は動じない。
「人間味ないよね」
「人間だ」
「ならリアクションとりなよ」
「どうやって？」
　すると、マジ、であったり、いたぁとお尻を庇う仕草をしたり、ぴょんぴょん跳ね回ったりと奇怪な動作を雀はした。思わず私はニヤリとする。
「笑えるんだ」雀は息を整えながら言った。
「人間だからな」
「笑った方がいいよ」と雀はまたもや太陽を見上げ、「太陽の眩しさと同じ表情になるから」と添えた。
　なぜだかわからないがその言葉は私の胸に響いた。なのでもう一度笑ってみせた。