メモリ・ウェブスター
駅には風変わり
 私は電車を待っていた。いつものように移動手段を模索していたら、歩みは駅に向かっていた。
 が、電車はいつまで経ってもこない。遅刻を私は嫌う。だらっとして、やる気がない、と思われるのは私の性分に合わないからだ。仮に、十三時待ち合わせ、と銘打って日々を過ごし、十三時三分に到着した不快さを体感すれば、期限内の十三時に収まった方がしっくりくる。そして遅刻したことを覚えている人間というのは、重々にして尾を引き、それを話のネタにし、当人を追い込むのである。「お前、遅刻したよな?だからルールぐらい守れよ。遅刻の罰としてコーヒー買ってきて」と半ば強気な態度をとる人間が後を絶たない。ミスは人間につきものであり、ミスは己のためには良いことだ、と納得するのは時期尚早だ。考えて見るがいい。ミスを受け入れる側の人間性に問題がある場合がほとんどだからだ。それを皆がわかっているから、ミスをしたくないと、小さくまとまる必要性がでてくるのだ。
 それにしても電車がこない。の前に、切符すら買えない。電子チャージもできない。なぜならば駅のシャッターがしまっているからだ。
 次の依頼主との待ち合わせ時刻が迫っている。私は電車を選択したことを後悔した。公共機関というものは、規則正しく。迷惑を掛けず運行するものと思い込んでいた。
 小さくまとまるなよ。
 まとまった結果がこれでは笑えない。笑うつもりもないが。私は駅前のベンチに座り、くだびれた下級掃除人を眺めることにした。下級というのは失礼かもしれないが、そう思わざるを得ない。やる気なく、帚は地面に密着していると思いきや、低空をふりふりし、仕事に対してだらっと感が募っている。職業的美意識やプロ意識を彼に求めるのは愚かだ。 
 下級掃除人は、自動販売機で缶コーヒーを買い、腰に手を当て缶コーヒーを飲んでいた。その光景を私は仔細に眺めていたら、下級掃除人が獲物でも見つけたかなようなぎらつたい目をを放った。
 下級掃除人が近づいて来る。さきほどまでのだらっとした雰囲気とは対照的に、堂々した足取りで私に向かって来る。ぎらついた目の輝きを放ちながら。
 私の前に下級掃除人が立ちはだかる。仁王立ちで缶コーヒー片手に。
「ここの駅は時間にルーズだぞ」
「ルーズ?」
 私は訊いた。
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