トワイライト
  尚、この頃有はいわゆる『マリッジブルー』に襲われていた。ちなみにマリッジブルーとは最も幸せであるはずの結婚が決まってから結婚式までの間に現れる、不安やイライラなどの精神的な症状の事なのだが、有の場合も例外ではなかった。




  何故ならばその当時隼人と言う自分の恋人を親友の萌に託くす決心をし、自分は生まれてすぐに自分を引き取り育ててくれた養両親(おや)に恩返しをするために、傾きかけたマチムラを救うべく養父(ちち)の親友である司の息子大雅と結婚する事を決め、結婚式を目前に控えていたからである。




  そして有はこの時に何度も『果たしてこれで良かったんだろうか?自分の選択はこれで間違ってはいなかっただろうか?』と常に自分の心に問いかけていた。そして籍は前もって町村家に入れていたものの、有は新たな気持ちで挙式に臨みたいと思い立ち、その頃雑誌で頻繁に紹介されていたこのトワイライトの浜辺に心の整理のため一人旅に出たのである。



  だがその日は天候が急変して次第に雲行きが怪しくなり、海が時化(しけ)始めた。そしてしばらくすると乗っていた船が突然傾いたかと思ったら有は大海原に放り出されてしまったのである。そしてこのトワイライトの浜辺に打ち上げられ、それを早朝散歩に出ていたこの近くのホテルのオーナーである如月治子(きさらぎ なおこ)と従業員の二人によって発見され、一命を取り留めた。
< 155 / 321 >

この作品をシェア

pagetop