恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「結局、俺が言いたかったのは、さ」



ハンカチで、藤井さんのスーツを滑る雫をとろうとしていた時だった。
不意の言葉に、彼を見上げる。



「悪い女になりきれないなら、遊び回んのはもうやめとけ」


ハンカチを握る私の手を、手のひらで押し戻しながら言った。


「はい」



自分でも驚くくらい、ころん、と返事が出てきて。
なんだろうな。
妙に調教された気分だ。



「…またバームクーヘン買いに行くわ」



ぷ。と、笑顔を見合わせた。
暫く見上げていると、彼の視線が私の後方にずれて、軽く見開くのがわかった。



「…どうかしました?」

「いや。酷く、悪意を感じる郵便受けがあるな、と…」



私の背後にあるのは、集合ポストだ。

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