恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
思えば、幾度となく夜を共に過ごしたけれど
こんな風に手をつないだりするのは、あの三叉路から向こう側。


それ以外の場所で、俺の前で彼女が「女」だったことは一度もない。


わからなくなった境界線はどうやらそこにあったのか。


初めて狭山の手を引いた、あの日から。
順序もなにもなく弱った彼女を慰めたあの日、せめて別の方法を見つけていたら。


二人の行為に気持ちはなかったと言い切る彼女に、好きだと言えていたら。


何かが変わって、いたのだろうか。


先に身体を繋げた後ろめたさや、自分の気持ちの曖昧さや
全力で俺への気持ちを否定する彼女に、負けた。


つまらないプライドだ。
心揺れたのは俺だけだったのか、と。悔しくて。


それに、自信の持てない曖昧な「好き」を伝えても彼女に伝わるとは思えなかった。


そう思えば、目の前で耳まで赤く染めて、依然こちらを睨む彼女の頬をつねってやりたくなる。



「ちょっ……いたたっ…急に何すんのよ」



あ、いけね。
現実につねってた。


頬を離して、親指でその痕を撫でた。

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