恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「あの日、飲み会で、私めちゃくちゃ飲んでたじゃない?」

「うん。みさにしては、珍しいから、心配した」

「……前の日にさ、お母さんと電話で、喧嘩しちゃって……」


私はまた暫しの沈黙を生んでしまうのだけど、今度は恵美が切り出した。


「…非常階段で。電話しながら泣いてた」

「あぁ…そっか。知ってたんだ」

「昼休憩一緒にしようと思っておっかけて、見ちゃった。ごめん」


なんで謝んの。って笑って、少しの嘆息のあと、私は一息に吐き出した。


「酔って電話してきて、それはいつのもことだったんだけど。お金くれって言われてね。

金の無心は初めてだったから、ショックだった。お父さんから援助も受けてるのに、全部お酒に消えちゃったのかと思ったら情けなくて。どんどんお母さんじゃなくなっていく気が、して」


昔は、あんなに明るい人だったのに、と。
想い出すほど哀しくなる。


「喧嘩してそのまま、電話無視してたら、あの飲み会の日も夜からずっと鳴ってた。いつもはバイブだけはしてたけど、それも消して着信に気がつかないようにして

……いっぱいお酒飲めばわからなくなれるかもって」


帰り、笹倉と一緒に帰ってる時、風が少しひんやりして、急に酔いから引き戻された。


お酒に逃げるお母さんの気持ちがわかった気がして、電話に出ない自分が酷い人間のように思えた。


けれど話をする勇気が持てずに、着信を知らせる携帯を握りしめたまま、動けなくなった時。



私は笹倉の手に甘えてしまった。
お酒で消えない現実から、ひと時逃げたくて。


彼も酔ってる。


私も酔ってる。


全部、お酒のせいにすればいい。
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