恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
――― 告白は母の方からだったと聞いて、妙に納得した。



「忘れなくてかまわない。2番目で良いから、傍にいさせてください」


当時、別の男性と結婚してしまった以前の恋人を忘れられない父に、母はそう言ってうるさく付きまとったそうだ。


献身的とみせてよくありがちなセリフに、父は初めは然して相手にもしていなかったが。


然し乍ら、飽きもせず暇さえあれば訪ねてくる母の底抜けな明るさが、いつのまにか生活に馴染んでしまった。


「根負けだな、でもそれも良いかと思わされた」


父の微笑みは懐かしむように優しくて。
そうだ、私の記憶でも元々母は、とても明るく楽しい人だった。


ところが、私が高校生の時、父の以前の恋人と父が会っているのを母が知ってから、おかしくなってしまった。


「彼女が離婚して、その後の生活で仕事面の相談に乗ってただけなんだ。

ただ、母さんには信じてもらえなくて…

俺がまだ、昔の気持ちを引きずってるとずっと思ってたんだろう」


母が言ってた、『愛情深い人』というのは、こういうことなのだろう。
私が悪い、というのは、2番目でいいから、という気持ちを守れなかったという意味なんだろうか。


そう思えば、つくづく長い片思いだと少し可哀想になった。


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