恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
私が否定しないことで確信を得たんだろう。
自分のコーヒーを買うと、振り向いて言った。


「やっぱり引越し手伝ってたんだ」

「もちろん。みさ一人じゃ大変だし。昨日話したんでしょ?」


今朝、みさからメールが来ていた。
絶対しゃべるな、と念押しで。


だけど、私は迷っている。
瑛人君にその気があるなら、話をした方が良いに決まってる。


適当な場所を陣取って座ると、彼も当然のように向かいに座った。


瑛人君の様子次第で、みさには悪いけれど話そうと考えていた。


彼が本気で探そうとすればいくらでも方法はあるわけだし、隠すことには意味がない。


「狭山、どこにいるの?」


その声に目線を上げれば、目の前にあるのはあんなに引き摺った人の顔。


疲れているのだろうか、眠れていないのだろうか。
よく見れば、目が赤く充血していた。


誰を想っての、疲労なのか。
そう考えても、今はもう何も感じない。


自分の手で終わらせたんだと、自然と唇に笑みが浮かんだ。


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