恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
笹倉を紹介した時の母親の舞い上がりっぷりは半端なかった。



「みぃちゃん!みぃちゃん!イケメンがいるよ!」

「…お母さん。恥ずかしいから」



そう。
ここ数年気落ちしていたのですっかり忘れていたが、母は元々こういう人間だった。


笹倉にしてみれば、きっと鬱屈した人物像を持っていただろうから。
気の抜けたような、安堵したような表情を見せていた。



「結婚するんなら、早く一緒に住んだ方がいいわ。だって、マタニティ期間だって大事な時間だし、産まれたらもう二人っきりになんてなれないのよ?」

「えー。だって、産むのはこっちの病院にしようと思ってるし。また引っ越すのメンドクサイよ」

「一か月前くらいに里帰りしてくればいいのよ、みんなそうよ」



ぐいぐい来る母親の後押しもあり、私は結局実家には2ヶ月ほどの滞在で、また最小限の荷物だけで引っ越すことになった。


笹倉は、結婚を機に新居を考えているらしく、私と一緒に探したいらしかった。
そういう面を考えれば、確かに早めに彼の所へ身を寄せるのは妥当なのかもしれないが。



2月の頭。
荷物は全部宅配便で送ってしまい、私はバッグ一つで彼のマンションに来た。


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