恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
胸の中で、「妬かなくても」と彼女の声がくぐもって響く。
その淡々とした口調に余計に自分が情けなくなるが。


妬かずにいられるか。
藤井にどんだけヤキモキさせられたか、狭山は全くわかってないらしい。


三輪の悪戯を見つけた時も、それから捕まえるまでの数日間も。


母親が倒れて病院に付き添ったのも、彼女自身が倒れた時も、一緒にいたのは全部、あの人だ。



あ、やべぇ。
なんで狭山が俺と居ることを選んでくれたのか、わかんなくなってきた。


あ、子供ができたからか。
彼女が選んだのは俺じゃなく、子供の為に家族を作ることだ。



それでも、恋愛感情を放棄したはずの彼女の言葉に、あの日確かに微熱を見つけたはずなのに。


それすらも見失いそうになる。
自信なんてどこにもない。



「笹倉ってさ。こういうタイプだった?

 なんてか、こう。

 来る者拒まず去るもの追わずの、ドライなタイプだと思ってた」



彼女が首を傾げた。


あ。
やっぱり、そう思われてた。


いや、そういう部分も、否定はできないんだけど。
花丸正解ってわけでも、ない。



「それってさ。…なんで、そう思ってた?」


< 348 / 398 >

この作品をシェア

pagetop