恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
腕の中で彼女の頭がもぞもぞと動く。
思い出そうと記憶を辿っているようで、かすかに唸る声とぽそぽそと独り言のような呟き。


思い当たる節はある。


っていうかアレしかない。
彼女の中に俺のイメージを確立させた、決定的なことっていったら。


彼女が答えを見つけたのか、少し弾んだ声を上げた。



「うん、そうだ。やっぱ初めて笹倉と、ヤっちゃった日だ」

「ヤっちゃった、日。ね」

「えっちした日ね」

「いや、言い直さなくていいから」



そこしかないよな。
自業自得としか言い様がなく、深く溜息が洩れた。


あの日、彼女の様子が少しおかしくてとか。
更に俺もアルコールが程よくまわってて、とか。


そんなことは、全部言い訳にしかならない。


彼女の気持ちも自分の気持ちも確かめることもなく、肌だけを合わせて安寧を優先させた。



「お酒も入って酔った勢いもあったんだろうけど。ただの職場仲間とぺろっとそうなっちゃうんだから、やっぱそういう人なんだって。朝起きた時に妙に納得したの覚えてる」



俺の溜息が、不満気味に聞こえたのか。
彼女は畳み掛けるようにそう言った。


その通りでしょ、って結論づけるかのように。



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