君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
「菜々子も飲んだら?」


「うん...」


言われるがまま蓋を開け、一気にビールを流し込む。


「...美味しい」


散々走って、沢山泣いて。シャワーを浴びた私の体内は、驚くほど水分を欲していた。


「そりゃうまいだろうな。...あれだけ泣いたら」


そう笑いながらビールを飲む翔ちゃん。


「...本当にごめん。迷惑かけちゃって...」


雨の中付き合わせちゃって...。


「バーカ。なにを今更」


そう言うと翔ちゃんはいつものように私の頭を、ぐちゃぐちゃに撫でる。いつもの私だったらすぐ『やめてよ』って言って怒るのに、今日はそんな言葉が出なかった。


「...誰だってさ、泣きたいくらい辛い時があるよ。そんな時に傍にいてやるのが、俺や桜子なんじゃねぇの?」


そう話しながら、今度は優しく頭を撫でるものだから、あれほど泣いたのにまた涙が溢れてきた。


「翔ちゃ...私、ダメみたい」


「何が?」


「全部が。...自分のことなのに、どうしたらいいのか分からないの。...もう、考えるのも辛い」


最初はただ、目があったり、挨拶出来たり。たったそれだけで数日は幸せな気分でいられた。
なのに段々欲張りになっていって、それだけじゃ全然足りなくて...。


「じゃあさ、ゆっくりでいいから俺に話してみてよ。話せるところまででいいから。...ちゃんと最後まで聞いてやるから」


あんなに翔ちゃんに甘えたらいけないって言い聞かせていたのにー...。


それはまるで魔法の言葉のようだった。翔ちゃんに魔法をかけられたように、私はゆっくりと話した。


ーーーーーーー

ーーーー


「そっか。...そんなことがあったのか。それは泣きたくもなるよな」


まるでお母さんのように、話を聞いてくれた翔ちゃん。


「菜々子はさ、素直に今、どうしたいの?」


今...?


「東野さんと一緒にいたい。...だけど、東野さんに幸せになってもらいたい...」


「うん...」


「私は幸せなの。東野さんと一緒にいられるだけで。...だけどやっぱり、東野さんも同じ気持ちでいてくれないとやだ。東野さんは私を選んでくれたけど、絶対無理してるから...」


「何でそう思うんだ?」


「だって...!」


だって、そう思っちゃったんだもの。


「東野さんがそう言ったのか?違うだろ?あくまで菜々子の考えであって、東野さんは違う風に思ってるかもしれないだろ?」

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