2LDKの元!?カレ
真田さんは西野くんをみつめたまま固まってしまった。
どの辺りから話を聞いていたのかわからないけど、私だって気まずい。
西野くんをチラリとみると、デスクにコーヒーを置いて「チーフ、コーヒー冷めないうちに飲んでくださいね」と、素知らぬ顔で作業を再開する。
「……あ、うん。ありがとう」
思わず真田さんと顔を見合わせた。
先ほどの会話は聞かれていなかったのかもしれない。私はそう考えることにして、彼女に仕事へ戻るよう声をかけた。
それから食事を済ませるだけの休憩をはさんだ午後、西野くんと話すのはもちろん鏑木圭について。
「オレ、この間から、色々調べてはいるんですけどね。経歴や、受賞歴以外となると全く情報がなくて。飲食店やってる友達にも聞いてみたんですけど、鏑木圭は謎だっていってました」
「うん、私も飲食関係の情報誌を編集してる子に聞いたけど、分からないって言われた。しかも、今どきSNSのアカウントも取得していなくて、ブログも書かないなんてね」
「確かに。でも有名人が書くブログには、彼と彼の店の事はよく書かれてますけどね」
「それだけじゃ足りないんだよね」
ターゲットにまつわる情報はとても重要だ。
会話の糸口を見つける為だけではない。
まず、趣味や嗜好から、喜ばれるような手土産を用意したり、友人知人を味方につけて、口添えをしてもらったりもする。
心を開いてもらうための下準備は必要不可欠といえるのだ。
しかしながら、その情報がゼロとは。
否応なしにため息が漏れる。
「仕方ないですよ。もう時間ですし、とにかく会って話してみましょう。どのみち小細工は通用しない感じの人ですから」
「うん、そうだね。行こうか」
私は大きく頷くと、勢いよく立ち上がった。