オクターブ ~縮まるキョリ~
*夜*


8月も半ばに差し掛かった、ある熱帯夜のこと。
私はクーラーのきいた自室で、夏休みの課題、「学年歌」の作詞に取り掛かっていた。


歌はまず、歌詞から作られる。
最近では、まず初めにメロディが作られ、その後にそこに当てはめるように歌詞が書かれることも珍しくないが、本来はそうではないらしい。
音楽の先生が、そのように説明していた。


学年全員が作詞をし、夏休み明けに自分たちの投票で最も良い歌詞が選ばれる。
その後、作曲の課題がまた全員に課され、今度は音楽の先生がその中から選ぶ。
以外と、時間のかかる作業なのだ。


「うーん……何か違う…」


私はそう言いながら、ルーズリーフに書いた文字をシャーペンでぐちゃぐちゃと塗りつぶした。
書いては消し、書いては消しを繰り返し、紙面はほぼ真っ黒になっていた。


「どうも、わざとらしいんだよねー…」


歌詞のテーマは自由で、特に指定はされていない。
しかし「合唱」となると、やはり「友情」とか「青春」とか、そういうところにキーワードは集中してくる。


いくつも言葉を書き連ねてみても、どうしても何かの歌を真似たような歌詞になってしまい、私は完全に行き詰っていた。


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