Wonderful DaysⅠ


「アイツ?」


「田中……」


田中さんの名前を聞いただけで、また逆戻りしたらしい私の表情に、魁さんは眉間を寄せた。


「えっと…私は英語しか喋れない設定になっていたので、声は出していないんです。ただ……」


「…ただ?」


言い淀む私に、言葉の先を促す魁さん。

口にしていいのか迷ったのは、私の事だったから。

田中さんが何でウィンザーとしての私を知っているのかなんて、神威にも魁さんにも関係の無い事で。

日本でこの姿になるのは、きっと今日だけだから。


“マリア・ウィンザー”


その名前を知る人で、家族以外で友好的だったのは“ゆう君”と魁さんだけだった。


「田中さんがココアを買って来てくれたのに、私、お金持ってなくて……
日本語で話せないので、どう伝えていいのかわからなくて黙っていたら重盛さんが田中さんを呼んだんです」


もし、魁さんに相談して彼を何かに巻き込んでしまうのだけは避けたくて。


だから言えなかった……



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