桜舞う
吉辰が出陣して一月。鈴は相変わらずの毎日であった。

表向きは。

どんなに気を奮い立たせても、敵わないものがある。鈴にとって、それは夜ある。

吉辰が出陣して10日ほど経った頃。鈴は久しぶりにあの夢を見たのだ。吉辰のそばで寝るのに慣れてしまい、一人寝はもうできなくなりつつあった。

吉辰の優しさに甘え、鈴は己が弱くなってしまったからだと思った。自分は武士の妻。そのような弱さなど、許されることではない。
しかし夢が怖いのも事実。鈴は徐々に寝る時間が少なくなっていった。

鈴の異変にいち早く気づいたのはもちろん松江である。

「姫様、お疲れのご様子ですがもしやまた夢を?」

松江は鈴姫の苦難をそばでずっと支えてきた。鈴姫は上手く隠すが、松江にはほんのわずかな変化もすぐにわかってしまう。

本当は松江にも隠して自分でなんとかしなければならない。鈴姫はそう思い込んでいたが無理であることも自覚していた。

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