契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「お芝居ってこれですか?」


「ああ まだあきらめてくれないようだ」


「ひどい別れ方ですね」


自分が彼女の立場だったらどうしただろう……みんなに見られて……あんなに冷たく言われたら、凄いダメージを受けるだろう。


「最初から真剣な付き合いでないことは合意の上だ」


「私はこんなことの為に、こんな服まで着せられて連れてこられたんですね?」


「そんなところかな」


「最低です!」


私は女の気持ちを考えていない真宮さんに怒りを感じて立ち上がった。


その途端、身体が浮いたような感じに戸惑う。


「おいっ!」


足元がふらついた私を真宮さんは支えると、もう一度イスに座らせた。


「どうしたんだろう……?」


手を額につけて俯く。急に立ったせいか、頭と目の前がぐるぐる回っている。


「もう酔ったのか?」


真宮さんが驚いた声。


「そんなわけないです……」


しっかりしなければと思うのだが、顔を上げると目の前の真宮さんの顔が二重に見えてくる。


二重に見えても、良い男は良い男なんだと意識の片隅で思う。


「とに……かく……きちんと話をして……別れた方が……」


ずるっとイスから落ちそうになる所を私は真宮さんに支えられた。


覚えているのはそこまでで、私はすうっと暗闇に引き込まれ意識を手放した。

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