契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「琉聖さん!」


怒ったような甲高い声に驚いて、私は声の主を見上げる。


モデル風の美しい女性が顔を真っ赤にさせて立っていた。


名前を呼ばれた真宮さんはと言うと、ゆっくり琥珀色の液体を飲んでから視線を彼女に向けた。


「私の約束を破って女と一緒だなんてどういうことですか?」


完璧なまでにお化粧された顔が歪む。


泣きそうな女性を見て、私は慌てて真宮さんを見る。


「君には言ってあるだろう?」


何を言ってあるの?


私には何のことだかわからず小首を傾げてしまいそうになる。


「真剣なお付き合いだと思っていましたわ」


真宮さんはこの女性と別れたいんだ……だから私を……。


「他の客に迷惑だ 何よりも最愛の人が戸惑っているだろう?」


そう言って、今まで一度もされたことがないくらいの愛しげな眼差しを真宮さんは私に向けた。


その顔は芝居だとわかっていても私を蕩けさせてしまう笑みだった。


最愛の人って……私を巻き込まないで下さい……。


「こんな女っ!……私はあきらめませんから!」


私を穴が開くくらいの視線で睨むと、女性はきびすを返してその場から去って行った。


その直後、ウエイターが私のカクテルを運んで来た。


頼んでから時間が経っている。


その場の気まずい雰囲気に持って来られなかったようだ。

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