契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「本当ならいいのか?」


私の神経を逆なでるように茶化す言葉に思わず声が大きくなる。


「そうでなくてっ!」


淡い恋心をこの人に少しでも抱いた私がバカだった……。


「契約だから無論、報酬は支払う」


「そんなもの、いりません!」


私は怒りがふつふつとこみ上げ、真宮の副社長を前にしているというのに衝動的に立ち上がった。


「他の人を当たって下さい」


腹が立っているけれど、一応親会社の副社長さん、私は深くお辞儀をしてから応接室を出た。


部屋に戻る足取りが重い。


佳美先輩や麻奈は何の用だったか聞きたがるだろう。


書類ミスだったら、上司の席で叱られるはず。応接室に呼ばれるわけがない。


今更ながら思うと、急にどっと疲れを感じる。


いろいろ聞かれるのを覚悟して部屋に戻った私だけど、部長が戻っていて話が出来る雰囲気ではなかった。


ホッと安堵していると、麻奈からメモを渡される。


あとで話してね とだけ書いたメモだ。


私はわからないようにため息を吐いて、麻奈に小さく頷いた。


******


「さあ、何があったの?包み隠さずお姉さんに話してみなさい」


会社の近くのオープンカフェ。


日差しは強いけれど、夕方なので爽やかに吹く風が心地よい。


私は先週の金曜日、麻奈達と別れた所から話し始めた。


真宮さんに惹かれたことは隠して。

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