契約妻ですが、とろとろに愛されてます

もうすぐ真宮さんと会うと思うと、おさまっていた胸のドキドキが暴れ始めて足が震えてくる。


もう少し時間が欲しいと思った時、エレベーターは「チン！」と軽快な音をたてて止まった。


「こちらです」


エレベーターを降り、桜木さんはシーンと静まり返る廊下を歩き始めた。


「どうぞお入りください」


高級そうな材木で作られたドアの前で立ち止まり、ノックをしてから私に入るよう言った。


一歩踏み出すと、先ほどよりも足が震えているのがわかった。


広い部屋だった。窓を背に大きな机に向かっている真宮さんが居た。


書類を見ていた真宮さんは私が近づくと、立ち上がり自分の目の前のイスを勧めた。


なんか面接みたい……。


「気が変わったのは結構だが、条件とは？」


机に両肘を立てて指を組み私を見る真宮さんはどこからどうみても仕事が出来る有能な男性に見える。先日もそうだったけど、今も彼を見るとなぜか胸を高鳴らせてしまう。


真宮さんの顔から目を逸らすと、爪が綺麗に手入れされているのが見える。


引き伸ばしていても仕方がない。心を決めて口を開いた。


「……報酬の件です」


「金か」


「１５００万円下さい　すぐに」


「クッ　自分に１５００万の価値があるとでも？」


「ないのはわかっています　でも貴方と別れた後、会社にいられませんからそれぐらいないと割に合わないと思って」


がめつい女と思われてもかまわない。


「……わかった　契約書類を用意させよう」


契約書類を作成するよう桜木さんに指示をして、真宮さんは私の存在を忘れたかのように仕事を始めた。


私なりに真宮さんを調べた。ホテルや不動産、ゴルフ事業などを経営する真宮コーポレーションの三代目の御曹司だけど、経営手腕は祖父や父を超えるほどの采配を振るっている切れ者と噂があり、仕事は一目置かれているらしい。


会社の休日でもある土曜日でも出勤しているということは忙しいのだと思う。


真宮さんが仕事をしていてくれた方が気が楽だ。


十分ほど経ち、桜木さんがファイルを片手に入ってくると、真宮さんに手渡す。


ファイルを開いて書類を確認した真宮さんは私に書類を渡すと、立ち上がり窓際のキャビネットを開けて何かを出している。


私が手渡された書類を見ていると、目の前にお金の束が置かれた。


えっ？ここで……こんな大金を見るのは初めて……。


目の前のお金に目を見張るが、すぐに大金から目を逸らして契約書を読み始めた。