契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「この店の最高級の宝石だ カット、クラリティ、カラット、すべて申し分がない 好きなものを選ぶといい」


もちろん、真宮コーポレーションの副社長の婚約者なら最高級の物が相応しい。だけど、それらはどれも指に余るほど石が大きくて自分には相応しくないと思った。


「こんなに大きいダイヤ 付けられません もっと小さいのはありませんか?」


「まあ お嬢様は欲がありませんのね」


担当の女性が上品に小さく笑う。


「ここはお袋が良く出入りしている 小さい宝石など贈ったら何を言われるかわからないだろう」


私の耳に琉聖さんは唇を寄せて小声で言う。


「う……」


あの時の貴子さんを見れば想像できる。琉聖さんも貴子さんにはタジタジの様子だった。


琉聖さんの地位や家柄を考慮しなければならないのはわかる。


私は悩んだ末、その中でも小さめのハート型一粒ダイヤを選んだ。


左の薬指にはめた指輪はサイズもピッタリだ。小さめとは言え、私の指にはめたダイヤは大きい。


この大きさのダイヤの値段は目が飛び出るほど高いだろう。


「決まりだな」


私は不安げな表情で小さく頷いた。





車の中へ戻ると、指輪のお礼を言った。女の子なのでやはりキレイものは嬉しい。


「別れた後、売ればいい」


光に当たりキラキラ光る指輪を見つめていた私はハッとして琉聖さんを見た。


言われた言葉が信じられずに自分の耳を疑った。


「え……?」


「金の方がいいのだろう?」


やはり欲張りな人間だと思われているらしい。


悲しみが胸を襲い目頭が熱くなる。涙が出そうになりいつの間にか歯を食いしばっていた。


重苦しく感じる車内の雰囲気に、レストランに到着するまで窓の外を見ていた。


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