契約妻ですが、とろとろに愛されてます
琉聖さんの言葉は私の胸に突き刺さり、贅沢な美味しい食事も気を晴らしてはくれなかった。


当たり障りのない会話をして、目の前の食事を機械的に口に運んだ。口の中に入れればとろけそうなフォアグラも砂を噛むようだった。


食事が終わると、先日の高級セレクトショップに連れて行かれ、かなりの量の普段着やドレス等を琉聖さんは買い求めた。


「こんなに……」


次から次へと車に運ばれていく箱を見てあ然となる。試着したのは二着ほど。着替えている間にスタッフが持ってきた服や小物をすべて買ったようだった。


「これから外出やパーティーなどがあるからな」


これでは婚約者というより愛人……。この人はいつも彼女になった女性にこんな風に買ってあげているのだろうか……。


価値観や世界が違いすぎるのを感じた。


「何をしている?早く来い」


荷物が車に運ばれるのをぼんやり見ていた私は琉聖さんの声に我に返る。


彼は助手席のドアを開けて待っていた。




次に連れて行かれたのは琉聖さんのマンションだった。


玄関に入ると、強い力に引き寄せられて荒々しく唇が重ねられた。


「っ!……や……っ!」


「いや?」


琉聖さんの唇から顔を背けた私に鋭く聞いてくる。


「……だって……」


「納得して契約書にサインしたんだろう?」


「で、でもっ、心の準備が……」


「心の準備など必要ない」


肩をグイッと引き寄せられ唇が重ねられる。


慣れないキスに最初は硬く口を閉じていたけれど、執拗に唇を攻められて自然に開かれると琉聖さんは舌を入り込ませてきた。巧みなキスは次第に深いものになっていく。


「……っ……んっ……」


琉聖さんの舌が私の舌に絡まる。


こんなキスは初めての体験で、全身に震えが走り、立っていられなくなりそうなほど力が入らなくなる。しまいには膝がガクッと倒れそうになった所を抱き上げられた。


この先、どんなことが起こるのか、いくら経験がない私でもわかる。怖くなり琉聖さんの腕の中で手足をバタつかせた。


「いやっ……降ろしてっ!」


「本当にそれでいいのか?」


無理強いするタイプではないことはわかる。私でなくても生理的欲求を晴らしたければ電話一本で女性が来そうだから。


「……あ、あの……本当に心構えが――」


戸惑う気持ちでいっぱいでもう一度言うと、琉聖さんは私の言葉をさえぎり静かに言った。


「うるさい口だな」


唇がもう一度塞がれる。


「んっ!」


唇を貪られるようにキスをされ、舌が口腔を弄ぶように動いていくといつの間にか私の舌は彼の舌を追っていた。


「そうだ、絡ませるんだ」


ちゅっと水音が繰り返されると、背筋にジンとした感覚が走っていく。





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