契約妻ですが、とろとろに愛されてます
三〇分ほど走ると、おしゃれな外装のレストランの前に車は停まった。


芸能人や各界の有名人が良く出入りすると言われているレストランでテレビで見たことがある。


一度は行って見たいとは思っていたけれど、実際入るとなると気後れする。


「柚葉?」


入り口で立ち止まった私を琉聖さんが不思議そうに見る。


「あ……っと……」


「どうした?」


琉聖さんは微笑むと私の腰に手を置き抱き寄せた。


お芝居はもう始まってるんだ……。


「いらっしゃいませ 真宮様」


レストランに入ると、支配人らしき人物が飛んでくる。


「ご希望通り特別なデザートをご婚約者様の為に作らせていただきました」


琉聖さんがリクエストしたらしい。


端正な顔ですらりと身長が高い琉聖さんの容姿は否が応でも人目につく。テーブルに着くまでに人の目が刺さるように痛いと思うのは気のせいなのだろうか。


でもこれが目的。ここだったらすぐ真宮の御曹司の婚約は広まるはず。


予約席に着くと、私は幸せそうな笑顔を琉聖さんに向けた。


精一杯お芝居をしようと決めたのだ。


琉聖さんも俳優さながらの芝居で、本当に私を愛してくれているのかと思いそうになるほどの甘い笑みを浮かべて私を見る。私もしだいにリラックスしてきて食事を楽しんでいた。





琉聖さんが頼んでくれた特別なデザートを私は堪能していた。


甘いものが苦手な流聖さんは、食後のコーヒーを飲んでいる。


「これは?」


琉聖さんが手を伸ばし、私の左腕の紫色になった痣に触れる。


「どこかにぶつけっちゃったみたいです すぐ痕がついちゃうから」


麻奈にも言われたな、なんて思いながら、にっこり笑って特別に作られたデザートの最後の一口を口にした。

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