契約妻ですが、とろとろに愛されてます
ホテルの会場の中はきらびやかな世界だった。中流家庭に育った私にはまったく縁のない世界。

男女が着飾り、芸術的な料理を申し訳程度につまんでいる。


パーティーと言ったら、そんなイメージしかない。実際、考えた通りのことが目の前に広がっている。


私をエスコートした琉聖さんが会場の中に入った途端、シーンと水を打ったような静けさになった。聞こえるのは優雅なクラッシックの音色。


琉聖さんは気後れする私の腰に手を置きながら中へ進んでいく。


隣に立つ琉聖さんは見事にその中に溶け込んでいる。ウィングカラーに蝶ネクタイ、長身の琉聖さんはロングタキシードもすらりと着こなしている。


琉聖さんは信じられないほど素敵だった。日本人離れした容姿はこの会場にいる女性たちにすでに注目されている。特に若い女性は琉聖さんを見て胸をときめかせているのかもしれない。私だってマンションでその姿を見てからずっと心臓のドキドキは止まることを知らない。


「琉聖さん……」


出した声は微かに震えていた。


「どうした?」


顔を私に傾けて優しく聞いてくれる。


「私……」


「今日は最高にキレイだ 隣で笑っていればいい」


私の耳元に唇を寄せて囁く。


腰に置かれた手、優しい微笑み、怖気づきそうになった私を勇気づけてくれる。


演技なんていらない。演技をしなくても私は琉聖さんに微笑まれるたびに幸せな気分になるから。


少し自信をもてた気がした。


琉聖さんは知り合いに会釈しながら奥へと進んでいく。


各種飲み物を振る舞うウエイターを琉聖さんは呼び止めた。自分にはシャンパン、私には濃い紫色のグラスを選ぶ。


グラスを見つめる私に琉聖さんは微笑む。


「安心しろ、酒は入っていない」


琉聖さんの言葉に安心して頷くと、グラスを口に運んだ。



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