スロウダンス

緊張の説明会

東京駅から私鉄へ乗り継いで、わずか10分ほどで、今日の訪問先にたどり着いた。

ホームに降りて、すぐ見上げるほどの高層ビル群が出迎える。

すっと私の横に並んだ相良部長が1つを指差し、

「あのビルの40階から45階までが『サプライユニバース』だ。

「大きいですねぇ…人もいっぱいですねぇ…」

見上げたビルは、たくさんの窓ガラスが陽の光を反射していた。あの輝く窓一つ一つのフロアに何人の人達が働いているのだろう?

「変なところで感心するな、余所見してたら置いていくからな。」

言い捨てて、さっさと前を行く。その姿を私は慌てて追い掛けた。

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いくつもあるエレベーターの1つから
40階に上がり、モデルかと見紛うような綺麗な受付のお姉さんの案内される。

ふかふかの絨毯の感触を足裏で感じながら、説明会場に着くと既に他社の人達で、席はほぼ埋まっており、私達は中央後方の席に着く。

腰を掛けて、鞄の中から筆記具を取り出そうとしていると、ふと視線を感じ、顔を上げて辺りに目を巡らす。

向けられた視線は、気のせいではなく、前方、両隣からまじまじと無遠慮な
くらい私に向けられていた。

(は?な、何か…顔についてる?)
思わず、顔にペタペタと触る。

慌てて手鏡を取り出そうと、もう一度鞄中身を覗き込む。すると前列より椅子を引く音がした。

コツコツと靴音を鳴らしながら、私の前までやって来る。

見上げると、グレーのストライプスーツを来た、茶髪の男性が立っていた。しかも掛けている眼鏡のサイドフレームが赤という、なんとも派手な(チャラい?)見かけだ。

その人は、私の前に回り込み、隣に座る相良部長に、ニコリと笑い掛けた。

「やっぱり、相良課長でしたか。お見間違いかと思いました。」

「…どうもご無沙汰してます。日本パッケージの山下係長。」

「いやぁ、退職なされたのは存じてましたが、まさか転職先がNPコスメティックさんとは。驚きました。」

「別に格段珍しい事でも無いと思いますが。」

馴れ馴れしい口調で話しかける、その人とは対照的に相良部長はそっけない態度だ。

そんな空気も気にせず、ニコニコしながら話し続ける。

「相良さんがライバル社に居ると分かっただけでも今日の説明会に来た収穫になりました。社に戻りましたら、プロジェクトメンバーを見直さなければ。相良さんには敵いませんからね。」

相良部長がその言葉にフッと笑う。

「買い被り過ぎですよ、日本パッケージさんは、日本一の規模を誇るOEM会社じゃないですか。」

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