嘘と微熱と甘い罠
会議が終わって出ていったはずだったその人物は。
眉間に深々とシワを寄せ腕組みをし。
入り口に寄りかかるようにして立っている笠原さんだった。
「…お疲れ、さまです…」
なるべく平静を装ったけれど。
後ろめたいことがあるせいか。
顔を合わせられなくて俯きがちになってしまう。
「昨日、メールしたんだけど」
「…気付いたのが夜中だったんで…すみません」
「そんな時間まで何してた?」
「え…?」
今までそんなこと聞かれたこともなかったのに。
なんで…?
いつも穏やかで優しい笠原さんの声は。
聞いたことのない威圧感たっぷりの低い声で。
いつも柔らかく微笑んでいた目元も。
敵を見つけたかのように殺気を含んでいる。
…恐怖感。
笠原さんのことを。
初めて怖いと感じた…。