嘘と微熱と甘い罠

「…遅いなぁ」





壁付けのシンプルなアナログ時計が静かに時を示す。

いくらなんでも、遅いでしょ。

相良がミーティングルームを出ていってから、もう30分の時間が過ぎていた。

時々ため息に飲み込まれそうになりながらも。

相良に言われた通り、資料は目を通した。

自分なりの疑問点には付箋を貼った。

後は相良に疑問点を報告して。

それに対する答えが出れば明日の打ち合わせはとりあえずいける。

それなのに。

肝心の相良が戻ってこない。

コーヒー買いに行くだけなら、こんなに時間がかかるわけないよね…。





「…何か、あった…?」





会社の中にいるんだから、そんな心配するような何かがあるとは思えない。

社内を歩いていれば用のある人に捕まることだってある。

お腹痛くてトイレに籠っているのかも。

だけど。

無意識に口から出た自分の言葉に、なんだか嫌な予感しかしなくって。

私は慌ててミーティングルームを飛び出した。




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