君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】


「よっ、理佳。
 今日は調子よさそうだな」

「うん。
 今日は少しだけ宗成先生にピアノ弾かせて貰えたの。

 託実、ほんの少しだけ隆雪君に頼まれた曲
 昼間に編曲してみたの。

 一緒に聴いてもらえる?」


理佳はそうやって笑いながら、
ノートパソコンをベッドテーブルに置いて起動させた。


フォルダーを開いて、【虹の夢 原曲】【虹の夢 原曲・ピアノ】【虹の夢 編曲1】【虹の夢 編曲2】
そうやって記された、文字が視界に入る。



「えっと、これが私が預かった隆雪君が作曲したデーターなの」


そう言って理佳が再生ボタンを押すと、
ギターの音色の伴奏に合わせて、隆雪の鼻歌が聴こえてきた。


幼馴染って言っても……
アイツがこうやって曲まで作ろうとしてたなんて、
これを聴かされるまで何も知らなかった。


「次は私が参考に起こした原曲」


一つ一つ説明しながら、理佳は再生ボタンを押していく。


隆雪がギターと鼻歌で演奏していたその曲が、
今度はピアノの演奏で奏でられてた。

鼻歌の音まで、楽譜にピアノで再現されてた。



「ここからがアレンジなの。
 サビのフレーズを頭に持ってきてバージョンと、
 原曲通りに前奏を始めながら、後半から転調させていくバージョン。

 託実はどっちがいいと思ったか聴かせて?」


そう言いながら理佳は二曲続けて再生させた。



一曲目は、右手のメロディーがサビのラインを歌ってるけど
多分、ボーカルは音のない状態のアカペラで歌いだすのか?
その後、徐々に重なりはじめる伴奏。

二曲目は、前奏から入って第一フレーズ、第二フレーズと隆雪の鼻歌同様に流れていくメロディ。
後半のサビの後から、少しずつ動き始めて、転調していく。




どっちも綺麗だけど、俺にはどっちも物足りなかった。



「理佳、悪い……。
 俺はどっちも選べない。

 どっちも良い面と悪い面があって、どっちかを選ぶなんて出来ねぇよ。

 一曲目は、まだ歌詞とかわかんねぇけどボーカルが歌ってそうなイメージが湧いた。
 でも最後まで、なんか単調なんだ。

 二曲目は、なんか最初は退屈なんだけど後半の、理佳が凝りはじめた頃から続きが気になって仕方なかった。
 これが実際の生音になったらどんだけ楽しいだろうってさ。

 両方のいいところ、合体して編曲すれば?

 そしたら俺、お前がアレンジした曲ベースで頑張ってやるよ」



口をついて出た言葉に、思わず俺自身の口元を隠して舌打ちをする。
目の前の理佳は、キョトンと目を丸くして俺の方を見つめてた。
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