君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】



「託実……今、ベースするって言った?」

「言った。
 隆雪に誘われたんだよ。

 んでこの間、SHADEって奴の演奏を聴いて
 ベースに決めた。

 だからとっとと、曲でもなんでも作りやがれ。
 俺が、アイツと理佳の曲演奏してやる」



勢いというか……次から次、必死になればなるほど口をついて出る言葉。




「理佳ちゃん、お邪魔するよ。
 託実、少し声が大きいな」


そう言いながら白衣姿で病室に顔を出したのは親父。



「そうか……家に帰ったら、薫子さんに報告しないとな。
 託実がようやく自分の言葉で話したな。

 隆雪君と音楽をやりたいって。

 そうか、ベースをする気になったか……ギターやドラムじゃなくて」



おいっ、親父。
親父こそ、独り言がデカすぎやしないか?



そんなことを考えながらも、
理佳に話した勢いで、親父にまで聞かれてしまって内心焦ってた。



「託実、仕事が終わったら顔を出す。
 それまで、理佳ちゃんのところに居させて貰いなさい。

 理佳ちゃん、暫く息子を頼んだよ」


親父はそう言ってまた病室を後にした。

っていったいあの親父は何しに来たんだよ。
冷やかしに来たのかよ。


苛立つまま、理佳の病室に置かれてたゴミ箱を蹴ると
ゴミが散らばって、コロコロと床に転がる。



やべっ、ゴミ箱凹んだ。


慌ててゴミ箱を追いかけて、散らばったゴミを拾い入れると


「ごめん。
 ゴミ箱、また弁償する」


そういって理佳のベッドサイドの椅子に座った。



「別にいいよ。
 ゴミ箱、私もいろいろと八つ当たりしてるからすでにボロボロなの。

 でもいいなぁー。
 宗成先生と託実見てると親子らしいなーって。
 私もそんな関わり方がしてみたかったなー。

 病気じゃなければもっと違った関わり方が私も出来てたのかな?家族と……」


理佳はそう言うと、また五線譜と睨めっこしていく。


今度はわけのわかんない、鍵盤が画面上に現れたソフト。
その隣には、楽器の名前らしいものがずらりと一覧表示されている。



黙々と作業する理佳の隣、いつもの様に教科書を広げて
勉強を始めた。


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