君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】

17.夏が連れていく -託実-



GWのあの日から暫く、
アイツは何かに憑りつかれたみたいに
ベッドの上で五線譜にペンを走らせ続ける。


「何やってんだよ。
 まだ体調悪いだろうが……」


そう言ってアイツを休ませようとするものの、
当のアイツが休むことを拒んで、その作業を続けた。



だけど六月の後半。

梅雨特有の長雨が続き出した頃、
アイツは状態は急変した。



まだ学校で授業中だった俺の携帯に、
理佳の急変を告げるメールが、
アイツの両親の希望ってことで、母さんの携帯から一報が入る。


そのまま俺は、学校の授業を受け続けることも出来なくて、
授業を早退させて貰った。


慌てて駆けつけた病院。



俺が行ったところで、理佳はまた
何時もの分厚い扉の奥の住人だった。




家族の待合室に顔を出すと、
いつもの様に理佳の親が俺を迎え入れてくれる。



「託実くん、学校だと思ったんだがすまない。
 理佳の状態が危険みたいなんだ。

 どうなるかわからないから、せめて……託実君にだけは来て貰えないかと
 宗成先生に無理を承知でお願いしたんだ」


そんな風にいいながら、
理佳のお父さんは俺を部屋へと招き入れた。




促されるままに、控室に入って
俯きながら、一心に祈り続ける、理佳のお母さんの隣に腰掛ける。




待ち続ける、長い長い時間。




分厚い扉が開いて、何度もスタッフが出入りする度に
緊張だけが走り続ける。








何時間か過ぎた頃、
家族の控室に顔を出した親父の姿があった。



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