君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】




「親父……」
「先生……」



俺が親父を呼んだころと、理佳の両親が先生と親父を呼んだのはほぼ同時頃。


被ってしまった俺たちは、
その後、妙に遠慮しあってその先の言葉が続けられなくなった。



一呼吸の間があって、理佳のお父さんがもう一度親父に話しかけた。





「先生、理佳の様子は?」





その問いかけに、親父は俺に部屋を出るように目で合図を送る。


渋々、外に出ようと歩き出した俺を
理佳のお父さんが「託実くん」と呼び止めた。




ゆっくりと振り返ると、理佳のお父さんは此処においでって言わんばかりに
自分の隣に指をさして、トントンと空【くう】を叩いた。




もう一度親父を見ると、親父もそこに行きなさいと言う様に
視線で合図を送ってくる。



そうやって同席を家族によって許された俺は、
理佳の今の状態を知ることになる。





歯磨き中に出血を起こした理佳は、
その時の傷で、感染症を引き起こしたのだと言う。


今は、感染症の悪化を防ぐための治療が、
奥の部屋で行われているということだった。



それと同時に、肝臓と腎臓の働きが凄く悪くなっていること。


辛うじて、透析処置をすると言う形で
腎臓の機能を維持している状態だと言うことも告げられた。





一日、一日。


アイツが生き続けられた日に、
アイツの病室のカレンダーに【有難う】と書き込みながら
過ごす毎日。





理佳は集中治療室から出られないまま、
季節は流れ続けた。





七月に入った頃には、
血栓から脳梗塞を引き起こして、アイツは再び危機的な状態を迎えた。







そんな長い夜も、親父たちの処置もあって
無事に乗り越えられたけど、アイツの体に出た代償は、体の麻痺と言語障害。




うまく動かせない体。
そして、上手く話せない声。







< 230 / 247 >

この作品をシェア

pagetop