君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】









相変わらず俺は、理佳に逢うことは許されなかったけど
それでも、代わりに面会した理佳の親は、包み隠さずにアイツの様子を教えてくれた。




一進一退を繰り返し続けるアイツの病状。



だけど、アイツがどれだけ頑張っても
次から次へと体は異常をきたしていく。





気が付けば……アイツが俺と出逢ってから、
一年が過ぎようとしていた。







俺の運命を変えた去年の今頃。




ただ苦しかった時間だけの、その日が
理佳と出逢って俺の中で大きく存在が変わった大切な日。





理佳と初めて出逢った、アイツの病室。



カレンダーに【有難う】の文字を書き込んで、
俺はアイツが眠っていたはずのベッドに腰掛ける。



「なぁ、理佳……。

 早く戻って来いよ。
 もう、俺たちが出逢った七月だぞ。

 あの頃、俺は向こう側のベッドに居て
 お前はここで眠ってた。

 あれから一年……になるんだな。


 お前にとって俺は、まだ悪ガキのまんまか?
 それとも少しは頼りがいがある俺になったか?


 
 早く……戻って来いよ。


 あの扉の奥じゃ、
 家族じゃない俺には理佳に逢うことすら許されないんだ。


 俺は……ずっと待ってるから……」






アイツの眠っていたベッドを何度も叩きながら、
自分の中の想いを吐露するように俺の声は病室に零れ続ける。






そんな俺を……その場所から、
連れ出してくれたのは、最近が忙しくて殆ど顔を合わせることがなかった
裕真兄さんだった。







「託実……。
 理佳ちゃんは今、集中治療室で頑張ってる。

 だったら託実も今、
 するべきことをしっかりとしないと……}



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