君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】



「苛立ってんだろ。
 まぁ、カリカリしなさんな。

 腹も減ってるだろ」



そう言って、隆雪は俺の前にコンビニで購入したらしい
おにぎりを出す。


そしてわざわざ、袋をむいて俺の手に手渡した。


「俺も腹減ってんだよね」


そう言いながらもう一つも、手際よく破ると
俺よりも先に、おにぎりを頬張る。


隆雪につられるように、
昨日から拒絶続けた食べ物に被りついた。



俺が食べ終わったのを見届けて、
隆雪はゆっくりと立ち上がる。




「託実、あんまりグランに心配かけんなよ。

 後、おにぎり……俺のグランからの差し入れ。
 さっき下で逢ったんだよ。

 で、俺が任された。

 託実の顔も見たし、おにぎり一個食ったのも見届けたし
 俺行くわ。

 今日、ギターのレッスン日なんだ」



そう言うと親友は、いつもの様にでっかいハードケースを抱えて
病室から出ていった。




その後も順番に、姿を見せる家族と親族。





だけど……
その中で俺が一つだけ気が付いたこと。




俺の向かい側の女の元を
訪ねてきた奴は、一人もいないってこと。




「託実、隆雪君に聞いたぞ。

 裕真から差し入れして貰った、おにぎり食ったみたいだな」 



再び、病室を訪ねてきた親父が、
開口一番に告げる。



あの、おしゃべりめ。



隆雪のことを、そんな風に毒づきながら
親父の方を見た。



「ってか、親父の仕事ってそんなに暇なの?

 まっ、親父が忙しかったら、そんだけ
 苦しんでる病気の人が多いってことだから、
 暇にこしたわけはないのか」

「まぁな。

 忙しい時間の合間に、可愛い息子を見に来た父さんは
 また戦場に戻るとするよ」


親父はそんな皮肉を残しながら、
再び病室を後にした。



その後、慌ただしくなったのは病室の隣人。


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