君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】

7.憧れの幻想 鮮やかな世界 -理佳-





エントランスで演奏して、元弥君のところに行って
その後調子を崩した私は、
暫くの間、絶対安静を言い渡されて
ベッドから動くことを許して貰えなかった。



「理佳」

「理佳ちゃん」




遠く意識の向こうで私の名前を呼ぶ声が聞こえる。


だけどそこに……私が求める『お姉ちゃん』って
モモが呼んでくれる声は届かなかった。




モモ……。





「理佳ちゃん。
 理佳ちゃん、わかる?」




いつの間にか、口元には酸素マスク。


ゆっくりと声がする方に視線を向けたら、
裕先生が笑ってた。



無意識に、裕先生の腕を掴み取るように
腕を伸ばす。


指先に触れた裕先生の腕。


力を込めることが難しい私の手を、
裕先生が、ギュッと握りしめてくれた。




「大丈夫だよ。

 理佳ちゃん……、理佳ちゃんの
 お父さんとお母さんも来てくれてたんだよ。

 今、宗成叔父さんと連絡するから」



そう言うと、裕先生は病室を出ていく。




「って、夜に騒々しいな。
 お前、何処が悪いんだよ」




口悪く呟かれた同室の主治医の息子。




酸素マスクが邪魔をして、しゃべりにくい声で
必死に『ごめんなさい』の六文字を紡ぐ。




「理佳ちゃん、良く頑張った。
 もう大丈夫だぞ」



裕先生と一緒に姿を見せた、
宗成先生は、私の髪に触れながら笑いかけた。




「悪化したの?
 もう……心臓は動きたくないの?」



声になり切らない声で、
必死に問いかける。
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